市民のための薬と病気のお話
薬物動態について
薬物動態
皆さん、頭が痛いときには鎮痛剤を飲まれますね。なぜ、痛む頭に鎮痛剤を直接ぬらないのでしょうか?
実は鎮痛剤を飲んだ後、その中に含まれている薬(薬物)は図に示されるような長い体内旅行をへて痛みの中枢の存在する脳にまで行き、薬理効果(薬効)を示しているからです。この体の中における薬の旅について研究する学問分野を薬物動態学とよんでいます。
薬物の作用機構(効くしくみ)は薬物分子とその受容体(リセプター)との相互作用により一般的に説明されています。受容体は循環血液中に存在する場合もありますが、鎮痛薬の場合には中枢に存在します。従って、薬剤として投与された後、薬物が長い体内動態の旅をへて受容体にたどり着くまでの道のりを考えることは薬物治療を行う上で極めて重要なことなのです。
胃薬(いぐすり)のように、錠剤やカプセルとして服用した後、薬物が作用部位である胃粘膜に直接、作用する場合には問題はありません。しかし、例えば解熱・鎮痛薬、アルツハイマー病治療薬、睡眠薬のように、薬物の受容体が中枢に存在する場合には、薬剤からの薬物の体内動態特性が薬効の発現にとって重要な要因となります。
そこで、錠剤やカプセルなどよく使われる薬剤について説明します。ただし勘違いをするといけませんので、これから行う説明においては、経口投与後、薬物は消化管から吸収されて循環血液中にいたり、その後、循環血流にのって体の中をかけめぐり、作用部位に到達して初めて薬効を発揮するという“全身作用性の薬物”について説明します。
図はこの際の体内薬物動態を模式的に示しています。
薬剤として投与された後における薬物の体内動態を細かく見ていきますと、(1)吸収、(2)分布および(3)消失の過程から成り立っています。そこで次にそれぞれの過程について詳しくみていきましょう。
(回答者:高田寛治)