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一般の方へ:市民のための薬と病気のお話

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市民のための薬と病気のお話

薬の質問箱

治験

Q1「治験」とは?

A1

現在、病院などで使用され薬局などで市販されて病気の治療に役立っている医薬品は、数多くのボランティアや患者さんの理解と協力のもとに有効性や安全性が認識された後、実際に使用が許されたものです。

今後、さらに良い薬を創り、多くの病気の治療につなげるためには、研究者や医師だけでなく何より患者さんの協力が必要です。

新しく創られる薬が、最終的に厚生労働省から医薬品として承認を受けるまでに実施される、「人に対しての有効性や安全性を評価、確認するための臨床試験」を「治験」と言います。

「治験」の目的

科学の発展に伴い新しい作用機序の薬が次々に開発されています。これらの薬物が、本当に医薬品として病気の治療に有効であり、かつ安全であるか評価することは大変重要です。

動物実験での成績は、あくまでもヒトに対して薬物を使用する際の仮説を提供しているにすぎず、そのままヒトに当てはめることはできません。よりよい医薬品を世に送り出すためには、最終的にヒトを対象とした臨床試験(治験)を避けて通ることはできないのです。

ヒトを対象とした治験の目的は、医薬品候補薬がターゲットとする疾患または症候に対して、治療的ないし予防的効果を持っているのかを信頼性の高い方法で科学的に評価し、さらにその薬物を使用した時に起こりうる危険性や有害な反応を検討し、最終的には有効性と安全性の相対的評価などに基づいて、真に「くすり」として有用であるかを評価することです。

「治験」の倫理的うらづけ

臨床試験は上記の目的を達成するために、適切な科学的および倫理的原則に基づいてデザインされ、実施され、解析されなければなりません。

さまざまなルールが定められ、治験に参加される被験者の保護が最優先されるようになっています。当然の事ですが、初めて臨床試験で使用される薬物は、それに先だって動物を対象として行われる、

  • 毒性試験:毒性を発揮しない量を見極めたり、発ガン性や遺伝的に有害な作用を有していないか、あるいは妊婦や胎児、授乳期の子供への影響はどうかなどをさまざまな試験により確かめます
  • 薬効薬理試験:病態動物モデルを対象に期待される作用が発揮されるかを調べる試験
  • 安全性薬理試験:生命の維持に重要な器官に対しての作用を詳しく調べる試験
  • 薬物動態試験:くすりが吸収され、全身に分布し、代謝を受け、最終的に体外に排泄される経路や過程に関して解析する試験

などの非臨床試験の結果から、安全性と有効性が期待できると判断されたものに限られています。

病院内では患者さんの人権や安全を守り、治験が科学的に適正に実施されるように第三者機関として治験審査委員会が設置され、それにより審査し承認された治験のみが実施されます。

治験を行うためには、第一に患者さんの同意を得る事から始まります。患者さんの人権、安全及び福祉に対する配慮が最も重要で他のいかなる利益より優先されます。国により倫理的な規制や安全性に関する実施基準が設けられているのもこのためです。

治験はあくまでも自由意思で参加するものですから、納得できるまで治験の進め方や内容を確認することが大切です。そのうえで、治験に参加するかどうか決めるわけですが、その場で一人だけで決めずに家族や友人に相談するのも良い方法です。

治験に参加してもよいと思ったときには、口頭で伝えるだけでなく、同意書に署名し、文書の形ではっきり意思表示することになっています。もちろん、気持が変わったときには、いつでも、治験の途中であっても取り消すことができます。

治験が実施されると、患者さんの心のケアを配慮して医師以外に治験コーディネーターが相談窓口を務めます。また、常に患者さんの安全性を確保するため、治験実施の責任医師が異状を認めた場合にはその患者さんの治験は中止されます。

「治験」のステップ

治験は安全性と有効性を確認しながら段階的に、また目的に従って実施されるべきものです。

一般的には、動物を用いた非臨床試験の成績に基づき、はじめて治験薬をヒトに投与する段階となる第I相試験、患者さんを対象として治療効果を探索し、次の段階の試験での用法や用量を決定する第II相試験、有効性が期待される多くの患者さんを対象として、治験薬の適応症や、治験薬の有効性や安全性を検証する第III相試験があります。

第III相試験は、全国の多くの医療施設で実施されるため、試験目的、投与量、投与方法、被験者の選定などを明確にし、実施計画書を遵守して実施する事が重要となります。またこの段階では、「くすりとしての真の効果」があるかどうかを判定するために、外観や味を治験薬と全く同じにした偽薬(プラセボ)を用いたり、すでに有効性の確立している標準薬を対照とする投与群を設けて、比較対照試験を行います。

参考文献:臨床薬理学(日本臨床薬理学会編)医学書院

(回答者:渡邉裕司)


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