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一般の方へ:市民のための薬と病気のお話

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市民のための薬と病気のお話

薬の質問箱

薬物相互作用

Q1薬物相互作用について

A1

胃腸薬は別ですが、一般に薬は循環血液の流れに乗って体の中をくまなく巡り、病気の原因となっている体内部位に到達して効果を発揮します。一般的な例として飲み薬のケースを考えましょう。

錠剤やカプセルを飲みますと、先ず胃の中入ります。胃の中でこれらの薬剤が壊れた後、中から薬が溶け出します。胃の収縮により小腸へ移行した後、薬は吸収され、いったん門脈血流中に入ります。

私達の体は薬の分子を異物として認識しますので、肝臓が代謝による洗礼を浴びせ、取り除こうとします。しかし、代謝により完全に除去することはできず、代謝を免れた薬の分子が循環血液中に到達します。

ここでもまた循環血液中に豊富に存在するアルブミンなどの蛋白質が薬の分子に結合して不活性化を行って、体の中の正常な細胞を異物である薬の分子に直接被爆しないように守ります。しかし、循環血液中の蛋白質が薬の分子を結合により100%抱え込むことはできません。循環血液中の蛋白質と結合しない、いわゆる遊離型薬物分子が体のすみずみの末梢組織へ分布して薬理効果を発揮します。

この分布の過程と並行して、腎臓が薬とその代謝物を尿に溶かして体の外へ排泄することにより、体の中の細胞が薬と代謝物に被爆する時間をできるだけ短くしようとします。このような体の中における薬の動き―吸収、分布(蛋白結合)、薬理効果の発揮、代謝、排泄―の各過程において薬物相互作用が起こります。

そこで、このような体の中における薬の運命(薬物動態)の観点から薬物相互作用について詳しく説明しましょう。

薬物動態

薬物動態

吸収の過程における薬物相互作用

抗生物質である塩酸テトラサイクリンのカプセルや粉末(薬剤名アクロマイシンおよびアクロマイシンV)を、牛乳などカルシウムを多く含む飲料で服用しますと、テトラサイクリンが牛乳中に含まれるカルシウムイオンと結合して水に溶けなくなりますので、小腸からのテトラサイクリンの吸収が悪くなり、効きにくくなります。従って、お母さん方は赤ちゃんに塩酸テトラサイクリンを飲ます際に、粉ミルクといっしょにほ乳瓶に入れて飲ませないように気をつけてください。

分布の過程における薬物相互作用

糖尿病治療薬トルブタミド錠(薬剤名ヘキストラスチノン、ジアベン、ジアベトース1号、ブタマイドなど)に解熱消炎鎮痛薬アセチルサリチル酸の粉末(一般名アスピリン)(薬剤名アスピリンなど)を併用しますと、血液中のトルブタミドの遊離型濃度が上昇しますので、効き過ぎて低血糖(最悪の場合にはショックで倒れます)の副作用が出やすくなります。

代謝の過程における薬物相互作用

抗生物質エリスロマイシン錠(薬剤名エリスロシン、エリスロマイシン、エシノール、タカスノンなど)を喘息薬テオフィリンの錠剤、顆粒、カプセル(薬剤名テオドール、テオロング、スロービッド、アーデフィリン、セキロイド、テオスロー、テオフルマート、テルダン、テルバンスDS、テオドリップ、ユニフィル、ユニコン、ユニコンCR、テオスローL、テオフルマートL、テルダンLなど)と併用しますと、エリスロマイシンによりテオフィリンを代謝する酵素が阻害され、テオフィリンの血中濃度が高くなりますので、めまい・痙攣などの副作用が出やすくなります。

近頃は“スイッチOTC”と呼ばれるよく効く胃薬が大衆薬として販売されています。かつては、医師の処方箋が必要だったH2ブロッカーと呼ばれる強力な制酸胃腸薬剤が、簡単に薬局で購入できます。H2ブロッカーの中でもシメチジンとよばれる薬は、確かに胃酸の分泌をよく抑え、胃痛・胸やけ・もたれ・むかつきなどの症状を早く治してくれます。

しかしシメチジンは、肝臓の薬物代謝酵素により代謝される他の薬物の代謝を遅らせ、併用時に思わぬ副作用に見舞われますので、要注意です。特に、喘息患者さんがテオフィリンの薬剤と併用しますと、テオフィリンの副作用(悪心・嘔吐・けいれん・不整脈など)が出やすくなります。また、血栓症の予防目的でワルファリンカリウム錠を服用している患者さんには、青あざなどの出血が出やすくなります。ご注意下さい。

なお、シメチジンを配合した強力な制酸胃腸薬剤にはアルサメック錠、ザッツブロック、スカイジン、住友胃腸薬スコープ、センロックエース散剤およびセンロック錠、パンシロンH2ベスト、フロンティア錠などがあります。

逆に、肝臓の薬物代謝酵素の誘導が喫煙癖により起こることも知られています。ヘビースモーカーが喘息治療薬のテオフィリンの薬剤を服用する場合、肝臓の薬物代謝酵素の誘導によりテオフィリンの代謝速度が非喫煙者よりも高まっていますので、テオフィリンの投与量を増やさないと良い効果が得られにくいと言われています。

インターネットを通じて販売されている鬱(うつ)気分を明るくするハーブにセントジョーンズワート(日本名:セイヨウオトギリソウ)があります。このハーブを長期間飲用しますと肝薬物代謝酵素の1種であるCYP3A4の量が増加してきます。その結果、CYP3A4により代謝を受ける薬の肝臓での代謝速度が速まり、薬の効果が低下します。

セントジョーンズワートの長期飲用により効果が弱まる薬としては、抗エイズ薬の硫酸インジナビルのカプセル(薬剤名クリキシバン)、強心薬ジゴキシンの錠剤、細粒(薬剤名ハーフジゴキシンKY,ジゴキシンKY, ジゴキシンサンド、ジゴシン、ジゴハン)、臓器移植時の免疫抑制薬シクロスポリンのカプセル、内用液(薬剤名サンディミュン、ネオーラル、ネオメルク)、喘息治療薬テオフィリンの錠剤(薬剤名テオドール、テオロング、スロービッド、アーデフィリン、セキロイド、テオスロー、テオフルマート、テルダン、テルバンスDS、テオドリップ、ユニフィル、ユニコン、ユニコンCR、テオスローL、テオフルマートL、テルダンLなどなど)、抗血液凝固薬ワルファリンカリウムの錠剤(薬剤名ワーファリン、ワルファリンカリウムHD、アレファリンなど)、経口避妊用エチニルエストラジオール・ノルエチステロン配合錠剤ならびにエチニルエストラジオール・ノボノルゲストレル配合錠剤(薬剤名オーソ21、シンフェーズT28、ノリニールT28, エリオット21,アンジュ21、トライディオール21,トリキュラー21、リビアン28、ボセルモンなど)などが知られています。

これはお酒を飲み続けるとアルコールの代謝酵素の量が増えてきて、お酒に強くなる、すなわちお酒の効果が弱くなるのと同じ原理です。一般に酒の“飲み上がり”と呼ばれる日頃の経験から、皆さんにも容易にお分かりいただけるのではないでしょうか。

薬の作用そのものによる薬物相互作用

ニューキノロン系抗菌薬ノルフロキサシン錠剤(薬剤名バクシダール、アスデュフェ、ウナセラ、キサフロール、シーヌン、シンノルフ、ストバニール、トーワキサン、ノトラー、ノフキサン、ノフロキサン、ノルコジン、ノルジスト、ノルバクシン、ノルバクダ-ル、バスティーン、バフロキサール、バロクール、ブレマラート、マリオットン、ミタトニンなど)と非ステロイド性消炎鎮痛薬フルルビプロフェンの錠剤(薬剤名フロベン、アップノンなど)との併用により痙攣が起こり易くなります。

ニューキノロン系抗菌薬は中枢へ分布しやすい薬です。中枢で神経伝達に関与しているγ―アミノ酪酸(GABA)と呼ばれる物質が伝達を伝える部位に結合するのをニューキノロン系抗菌薬は阻害します。そこにフルルビプロフェンが併用されますと、ニューキノロン系抗菌薬の阻害作用を強めますので、痙攣の副作用が出やすくなります。

かつて、アメリカではアスピリンが解熱薬としてよく使われていました。しかし、子供が高熱とともにけいれんや吐き気をもよおすライ症候群(わかりやすく言えば、インフルエンザ(フルー)に伴う脳症)という病気は、アスピリンによる副作用だということがわかりました。

我が国におきましても、鎮痛解熱薬ジクロフェナクナトリウムの錠剤、坐剤、カプセル(薬剤名ボルタレン、ナボールSR、レクトス、アスビゾン、アデフロニックL, アナバン、イリナトロン、サビスミンTP、サフラック、ソレルモン、ダイスパスSR,ドセル、ブレシン、ボンフェナック、ボルマゲン、ヨウフェナックなど)にもライ症候群に対する注意が必要との通達が2000年の秋に厚生省(現厚生労働省)より出されました。

何故なら、アスピリンには、成人の心筋梗塞や脳梗塞の予防に利用されているくらいに、血液を固まりにくくする作用があります。一方、ジクロフェナクナトリウムの副作用にも、胃や十二指腸からの出血がよく知られています。

フルーにかかって、子供の脳の毛細血管はもろくなっていますので、そこへアスピリンやジクロフェナックなどの解熱薬を投与しますと、血液中の成分が脳の毛細血管からしみ出しやすくなるものと想像できます。ですから、アスピリンとジクロフェナクナトリウムをフルーにかかって高熱を出している子供に投与するのは危険です。

では、薬物相互作用を防ぐにはどうすれば良いでしょうか…

Aさんのケースでは“かかりつけの近医”から受ける処方箋を持って行く“かかりつけ薬局”とは異なる都心のビル内の薬局で消炎鎮痛剤をもらったために、薬物相互作用をチェックできなかったのです。

もしAさんが急がずに、交付された処方箋を持ち帰り、家近くのかかりつけ薬局に処方箋を出して調剤を受ければ、この薬物相互作用は起こらなかったはずです。また、Aさんが日頃かかりつけ薬局で薬を受け取る際には“お薬手帳”を発行してもらっていますので、都心のビル内の薬局へ歯科医から発行された処方箋を出す際に“お薬手帳”を見せていればこの薬物相互作用を防ぐことができたはずです。

薬物相互作用が心配なので、薬は1種類しか飲まないようにするべきでしょうか…

欧米では薬物治療の基本方針として単剤療法が主流となっています。

すなわち、患者さんを薬で治療する場合、多くの薬剤を処方せず、できるだけ1種類の薬剤で治そうという方法です。処方した薬剤が効いたか、それとも効かなかったか、の判断を下すには良い方法です。

1種類の薬剤で患者さんの訴える症状を抑えようとしますと、薬の投与量を十分に確保せねばなりません。そうしますと往々にして副作用が現れます。しかし、欧米においては薬に副作用はつきもので、薬剤を服用して病気の治療を行う場合にはやむを得ないことであるという認識が一般社会に受け入れられています。

一方、我が国においては、どうでしょうか?今や、ほぼ世界一の長寿国になっています。いわゆる高齢化社会の到来により、皆さん方の疾患構造が様変わりし、一人で多数の病気(病名)を持つ患者さんが大勢現れ、さらに増加していく傾向にあります。

そうしますと、一人の患者さんに数多くの薬剤を投与(専門的には多剤投与と呼びます)せざるを得ない状況にあります。複数の薬剤を同時に処方しますから、薬物相互作用の起きる確率は高くなります。そこで、皆さん方は信頼のおけるしっかりとした“かかりつけ薬局”を持ち、一箇所に処方箋を集めて調剤してもらうようにすれば、薬物相互作用を防ぐことができます。

また、病院や調剤薬局で薬剤を受け取る際には“お薬手帳”を発行してくれますので、どこで診察を受ける時にも、どこで調剤を受ける時にも、持参して見せるようにして下さい。お薬手帳の発行を受けられない場合でしたら、医師から交付された処方箋のコピーをとっておいて、他科を受診する場合には必ずコピーを持参して診察時に医師に見せて下さい。そうすれば薬物相互作用を防げます。

なお、お薬手帳は多少かさばりますので、よく持ち忘れてしまいます。近い将来には、携帯電話のメモリーに投薬を受けている薬剤の情報をしまっておくようになるでしょう。

(回答者:高田寛治)


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